メアリーの総て (ハイファ・アル=マンスール監督 / 原題 : Mary Shelley)

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この記事のテーマは越年のもの。そう、あのホラー小説、あるいは SF 小説の元祖とも言われる「フランケンシュタイン」(今日からちょうど 201年前、つまり 1818年 1月 1日に出版) に関連するものである。その小説の作者は、執筆開始時僅か 18歳の少女であった、メアリー・シェリー (1797 - 1851) 。この映画は、天才詩人と呼ばれたパーシー・シェリーの妻として知られるそのメアリー・シェリーの伝記映画である。もちろん私がこの映画のポスターを目にした際に、「これは必ず見に行かねば!!」と心に堅く誓った理由は、たまたまその時「フランケンシュタイン」を読んでいた最中であったこともさることながら、主演女優である。
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このブログで何度もその才能を絶賛してきた若手女優、エル・ファニング。実年齢は現在 20歳と、ちょうどメアリー・シェリーが「フランケンシュタイン」を執筆した頃と近い。いやそれにしてもこの女優さん、自分が今何をすべきかをよく分かっている。これまでに演じてきている役柄にはヴァラエティはあるものの、カルト的な雰囲気ですら楽しんで演じてしまうその才能は、ちょっとほかにないものだと思う。今自分が演じるべき役柄をきちんと自覚して、それを実に見事な演技で演じてしまうこの女優、実に末恐ろしいだけでなく、既に現代を代表する映画女優であると思う。この映画のプログラム冊子に載っている彼女のインタビューによると、彼女の理解するところのこの映画は、「少女の成長物語でもあるし、様々な経験の中から『自分の声』を見つけて、家族の影から外の世界へと踏み出していく女の子の物語だと思う。(中略) そんな女の子が、いまや誰もが知っている『フランケンシュタイン』を生みだすまでの物語なのよ、最高でしょ!」とのこと。こんな発言をできる 20歳とは、なんともすごいと思うのである。

先の小説に関する記事でも書いた通り、この時代にはロマン主義が台頭し、「今この瞬間、この場所ではないどこか」を夢想する文化が花開いた。そして、メアリー・シェリーの祖国英国は、ちょうど産業革命華やかなし頃であり、科学技術に対する人々の期待が一挙に高まった時代である。夫である詩人のシェリーや、その偉大なる先輩であり放蕩貴族であったバイロン、そして彼の主治医であったポリドリが集ったスイス、レマン湖での「ディオダディ荘の怪奇談義」は、この映画でも描かれているが、そこには象徴的な意味があって、それを知るには、併せてケン・ラッセル監督の「ゴシック」(1986年) を見るのがよいだろう。私も若い頃に封切で見て、大変興奮したものである。
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この映画のイメージは言うまでもなく、スイス出身で英国で活動した画家、ヨハン・ハインリヒ (またはヘンリー)・フューズリ (1741 - 1825) の「夢魔」に基づくもの。この画家の画業について、日本で充分知る機会がなく、私の記憶にある限りでは回顧展が開かれたことも、少なくとも近年はない。このブログでは、昨年、フランクフルトに行ったときの記事で、ゲーテの生家が博物館になっている施設で、当時のロマン主義の台頭を示す例として、幾つもの彼の作品が展示されていたことをご紹介した。実はこの「メアリーの総て」の中で、バイロン邸の壁にフューズリの「夢魔」がかかっていて、バイロンが「この絵を知っているか?」と質問するシーンがある。
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それに対してメアリーは即座に画家の名前を口にし、そして、その画家は自分の母の初恋の人であったと言うのである。調べてみると確かにそうだ。フューズリは、フェミニストの先駆者であり、メアリー・シェリーの母であるメアリー・ウルストンクラフト (1759 - 1797) からパリ旅行に誘われたが、妻から猛反対されたという (そりゃそうでしょうな。笑)。それは知らなかった。やはりメアリー・シェリーは、時代の空気をその作品に吹き込むべく、運命づけられていたわけだ。彼女の母は、上記の通り、女性の権利を主張した有名な社会思想家であった。その夫、つまりはメアリー・シェリーの父は、やはり思想家で無政府主義者のウィリアム・ゴドウィン (1756 - 1836) である。この 2人は当時の先端的な思想の持主で、自由恋愛を説いたという。だが、母メアリー・ウルストンクラフトは、38歳という当時の高齢出産でメアリーを生んだ直後に死去。このあたりに、メアリー・シェリーが持っていた、自らの出生への罪の意識と、生命に対する彼女の考えの出発点があり、それが「フランケンシュタイン」が生まれる背景になっているのではないだろうか。

この映画では、メアリーの幼少期は描かれず、シェリーと遭って恋に落ち、様々な悲運に見舞われながらも「フランケンシュタイン」を執筆し、出版にこぎつける様子に絞って描かれている。なので、父は出て来るが、既にこの世にいない母は出て来ない。エル・ファニング以外に有名な俳優は出ていないが、それぞれの登場人物にはなかなかに味がある。シェリーを演じるダグラス・ブースは現在 26歳。「ノア 約束の舟」や、このブログでも採り上げた「高邁と偏見とゾンビ」にも出演していたようだ。
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さて、私は上記の通り、この時代の文化や、「フランケンシュタイン」という作品にもともと興味があるので、この映画を楽しむことができたが、もしそのあたりに全く予備知識がなければどうだろう。いや、その場合でも必ずや、この映画から学ぶことはあると思う。日本ではあまり大々的に公開していないようで、その点は残念だが、見る価値は大いにある映画であると申し上げておこう。そんな映画を作ったのは、ハイファ・アル=マンスールという女流監督。なんとサウジアラビア出身の 44歳。2012年の「少女は自転車にのって」という作品が絶賛され、これが長編第 2作だという。女性目線で制作しているとは言えると思うが、決して声高に女性の権利を主張するわけではなく、運命に翻弄される人間たちを、仮借なく描いていると評価される。確かな手腕である。
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このように見ごたえ充分の映画であるので、ホラーとかゴシック小説とは関係なく、広くお薦めしたいと思う。そして、エル・ファニングの今後の活動には、本当に期待感が募る一方なのである。彼女は、セクハラ疑惑に揺れるウディ・アレンの新作 "A Rainy Day in New York" にも出演しているはずだが、このままお蔵入りしてしまうのだろうか・・・。アレン自身の行動がどうであれ、その作品を見ることができないなら、本当に残念なことだと思うのである。

by yokohama7474 | 2019-01-01 23:23 | 映画 | Comments(0)