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ピエタリ・インキネン指揮 プラハ交響楽団 (ヴァイオリン : 樫本大進) 2019年 1月 6日 横浜みなとみらいホール

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2019年初めてのコンサートである。この時期の東京では、ウィンナワルツを中心とするいわゆるニューイヤーコンサートの類が多いのだが、通常オーケストラのこの時期のレパートリーとしては、ドヴォルザークの「新世界から」の演奏頻度が高い。今月の日本のオケでは、秋山和慶と東京交響楽団の恒例のニューイヤーコンサートに加え、下野竜也と日本フィルが演奏する。うーん、そうか。そうすると今年は、それほどの頻度でもないようだ。実は今年の 1月には、またほかの曲が、何度も何度も東京のコンサートホールを賑わすことになるのだが、それについてはまたの機会に書くこともあるだろう。さてこの演奏会であるが、チェコ共和国の首都プラハを本拠地とするプラハ交響楽団の来日公演である。もちろんプラハには、チェコ・フィルという王者がいるのであるが、それ以外にも幾つもオーケストラがあって、音楽好きのチェコの人たちの需要に応えている。このプラハ響は 1934年の創立。ちょっと通好みかもしれないが、ヴァーツラフ・スメターチェク、ラディスラフ・スロヴァーク、ガエターノ・デローグ、そしてイジー・コウトといったチェコの名指揮者たちが首席指揮者を務めてきた。興味深いところでは、フランスの名指揮者で、チェコ・フィルとは数々の名録音を残しているセルジュ・ボドの名前もそこに入っている (ボドは私も好きな指揮者で、読響での名演も忘れがたいが、既に 91歳の高齢で、さすがに昨今では来日は難しいのであろう)。そのような歴史を持つプラハ響、設立時からその活動分野を「フィルム」「オペラ」「コンサート」の 3分野としていたとのことで、1930年代のチェコ映画 (って、あまりイメージ沸きませんが・・・。笑) の大多数はこのオケが演奏していたという。この 3分野、つまり FOK は、今でもこのオケの正式名称に入っているらしい。これが今回のプラグラム冊子の表紙だが、そこにもきっちりと FOK の三文字が。
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東京では日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者としてなじみ深いピエタリ・インキネン (38歳) は、世界で引っ張りだこのフィンランド人指揮者なのであるが、このプラハ響の首席指揮者も 2015年から務めている。ちょうど 3年前、2016年 1月にもこのコンビで来日しているが、私は聴いていないので、今回が、インキネンが日フィル以外を指揮するのを初めて聴く機会である。曲目は以下の通り。
 ブラームス : ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品 77 (ヴァイオリン : 樫本大進)
 ドヴォルザーク : 交響曲第 9番ホ短調作品95「新世界から」
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ソロを務める樫本大進は、言わずと知れたベルリン・フィルのコンサートマスターであるが、インキネンより 1歳年上。だがこの 2人には、ただ同世代という以上のご縁がある。それは、ともにザハール・ブロンというヴァイオリンの名教師のもとで学んだ同僚であるということだ。既に 20年来のつきあいであり、インキネンが指揮者になってからの初めての共演は 10年ほど前であるらしい。ともにその才能を認め合う 2人である。そして今回のブラームスは、そんな 2人ならではの気心の知れた部分を感じる箇所が何度もあった。ブラームスのコンチェルトはどれもオーケストラパートが分厚く書かれているが、この曲も、第 2楽章のオーボエのような目立つ箇所でなくとも、管楽器はなかなか大変だし、弦楽器もリズムが脈打つ感じで、音の網がしっかりつながっていかないといけない。そこにはオケとソリストの呼吸も大きな要素であるが、樫本はベルリン・フィルでオケの一員としてこの曲の伴奏を何度も演奏していて (しかもソリストは、フランク・ペーター=ツィンマーマン、アンネ=ゾフィー・ムター、イザベル・ファウストら最高の顔ぶれ) 、その経験が生きるだろうと自ら語っている。そう言われてみればそういう点はあったと思う。実に美しい演奏であった。ただ、もしそれでも少し保留をつけるとするなら、自由さを確保し、流れをよくしようとして、音のメリハリに少し課題が生じてしまったとは言えないだろうか。もともとこの人は技術をひけらかすタイプではなく、音楽の内面をみつめるタイプの演奏家であると思うが、ベルリン・フィルのコンサートマスターという重役を担うには、極限的な柔軟性が必要だろうと思う。それゆえ、普段の生活をこなしながら、コンチェルトのソリストとしてのスタンスについて自ら整理し、スタイルを維持するのは至難の業であろうと思う。その意味では、まだまだこれから彼の演奏は変わって行くであろうから、またソリストとして聴いてみたい人である。尚、アンコールは演奏されなかった。

メインの「新世界」は、これはもう、チェコのオーケストラが演奏するチェコ音楽であるゆえ、悪かろうはずもない。プラハ響の音はもっとローカル色豊かであろうかと予想していたのだが、これはインキネンの指揮とも関係するのだろうか、非常にクリアで都会的な音。この曲ではやはり強い推進力が必要で、その一方、第 2楽章をはじめとして、充分に歌い込むことも必要になってくるが、いずれの面も素晴らしいクオリティであったと思う。もちろん、偉大なる同国の先人の最高傑作であるので、楽員たちは誇りを持って演奏していることは間違いないと思うものの、ただ誇りだけでは、クリアな音は出ないだろう。チェコ人によるチェコ音楽の演奏とは、ともすればお国ものとしての評価が先に来てしまいがちであるが、今回のように、改めて「新世界」がいかに名曲であるのかを実感させてくれる演奏は、大変に貴重であると思うのである。ただ、ひとつ興味深かったのは、終楽章に一度だけ登場するシンバル。この箇所は、派手に叩くのではなく、「ジュワワー」という淡い音で鳴るべきであり、多くの演奏では 2枚のシンバルを摺り合わせて音を出すと理解しているが、今回は 1枚のシンバルを横向けに固定したものを、バチで叩いて音を出していた。正直、これよりは 2枚で擦り合わせる方が、音の深みは出ると思うのだが、「本場」チェコでは、この箇所はこれで許容されているのであろうか。些細なことではあるが、少し気になった次第。

さてアンコールは 2曲。ともに予想通りドヴォルザークのスラヴ舞曲からで、まずは情緒あふれるホ短調作品 72-2 (第 10番)。そして盛り上がりを見せる変イ長調作品 46-8 (第 8番)。これらも特に民族的と言わずとも、曲の持ち味を活かした充実の音響であったと言えばよいように思う。尚、今回のインキネンとプラハ響の日本ツアーはこの日が初日。これから、東京でもあと 3回公演があるが、札幌 (雪は大丈夫か?)、西宮、名古屋、長崎、豊川を回って、合計 9公演。チェコ物だけでなく、チャイコフスキー 5番がメインの日もあり、同じスラヴ系のロシア音楽とは言っても、いわゆるお国もの崇拝とは異なる内容が好ましい。そういえば同時期にプラハ国立歌劇場も来日しており、「フィガロの結婚」(プラハで初めて上演されたときに大人気を得たことを、モーツァルト自身も誇りにしていた演目だ) を全国で上演する。両者の楽員たち同士が、日本のどこかで盃を酌み交わすようなこともあるのだろうかと想像するのは楽しい。そしてインキネンには、また日フィルの指揮台で再会したいと思う。今年はヨーロッパツアーもあり、ますます気合の入る 1年であろう。
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by yokohama7474 | 2019-01-06 22:46 | 音楽 (Live)