サスペリア (ルカ・グァダニーノ監督 / 原題 : Suspiria)

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この題名、そして「決してひとりでは見ないでください」というコピー。これは私の世代にとっては大変に懐かしい。1977年のイタリア映画で、ダリオ・アルジェント監督、ジェシカ・ハーパー主演の作品名が「サスペリア」であり、そこで使われていた宣伝コピーが、この「決してひとりでは見ないでください」であったのである。公開当時、私は小学 6年生だが、確か中学生になってから、場末の二番館でこの映画を見たはずである。何やら怖かった記憶はあるものの、ストーリーは全く覚えていない。だが明確に覚えているのはこの映画のテーマ曲である。おどろおどろしい恐怖を演出するのではなく、静かにピロピロ進行し、不気味なささやきが入ると思うと、ビヨーンというパーカッションが入る。これは心底怖かった。と、ここまで書いたら (当初想定した書き出しとは異なるが) この話を続けてしまうと、この映画に先立つこと 4年。1973年制作の「エクソシスト」が、日本において「オカルト映画」という言葉を生み出す大ヒットになったわけだが、この掛値なしの名作映画において忘れ難かったのはその音楽。マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」(何やら、音楽の使用に関する権利の問題があったやに聞いたこともあるが) が、本当に怖かった。この 1977年の「サスペリア」においても同様の趣向が取られていたが、その音楽を担当したのはゴブリン。イタリアのプログレ・バンドである。彼らの名前は、日本では「サスペリア 2」のタイトルで 1978年に公開されたダリオ・アルジェントの前作 (これも大変怖い映画ではあるものの、実は「サスペリア」とは全く関係のない内容だし、そもそも実際はこちらの方が先に制作されているので、「2」はいくらなんでも・・・。笑) でも同様の趣向の音楽が使われていたことで知られるようになり、そして何よりの決定打は、ジョージ・A・ロメロの記念碑的傑作「ゾンビ」(原題 : Dawn of the Dead) におけるゴブリンの音楽である。だがその音楽は、それまでのヒタヒタ漂う静かな恐怖路線ではなく、迫り来るゾンビたちの恐怖を劇的に表現したものであった。私など、今でも自分を鼓舞するときにはこの曲を口ずさむほどだ (若干誇張)。その一方で、ホラー映画におけるヒタヒタ路線は、ジョン・カーペンターの出世作「ハロウィン」(1978年) で踏襲された。これはカーペンター自身による作曲である。因みにその頃は未だハロウィンという言葉は、日本では全く馴染みのないものであった。尚、便利な時代になったもので、以上の音楽は、現在ではいずれも YouTube で視聴可能である。と、冒頭からの快調な脱線はここまでにして、1977年版「サスペリア」のポスターは、こんな感じであった。因みに監督のダリオ・アルジェントは現在でも 78歳で健在。近年でも結構映画を撮っているようである。
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この映画は新旧とも、一言で言うならば、魔女の巣窟の映画である。ドイツの名門バレエ団に入るために米国からやってきたスージーという女性が主人公で、そのバレエ団で失踪者が出たり、何やら怪しげな雰囲気があったりして、実は実は・・・というストーリー。私はこの記事を書くために旧作のストーリーを確認してみたが、その大きな流れは今回と同じ。だが逆に言うと、ほかには違うところが多すぎて、これはもう、リメイクというには飛躍がありすぎる。舞台設定は、旧作がドイツ南西部のフライブルクであったのに対し、今回はベルリン。時代設定は旧作の公開年である 1977年であるから、当然ベルリンは東西に分割された状態である。そして、旧作には登場しない心理学者のクレンペラー博士 (音楽ファンが聞くと、すぐに「オットー、ユダヤ人ですね」とコメントしそうな名前である) なる人物が、戦時中に生き別れてしまった妻を思慕するという流れが、サイドストーリーになっている。なにせ全編 152分。たかがホラーだろうという侮りは許されない超大作で、私が見たときは劇場は満員の盛況であった。そんなにすごい映画なのだろうか。これが主役スージーを演じるダコタ・ジョンソン。華奢だった旧作の主演女優ジェシカ・ハーパーと比べると、ダンサー役らしく筋肉質で、しかも逞しさがある。
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今思うと、この新旧の主役の差くらい、新旧作品の間には差があって、正直なところ私には今回の作品がそんなに素晴らしい映画とは、どうしても思えないのである。例えば、魔女軍団であるダンスカンパニーの女性たちの個性差は、あえて描かれていない。その分、カンパニーを率いる伝説的ダンサー、マダム・ブランに焦点が当たっているとは言えようが、でも結局最後までこの人 (?) が何者であるのか、私には分からなかった。そもそも、隠し部屋があってそこで儀式が行われているなら、その儀式についての丁寧な種明かしをしないと、観客が驚愕することはないだろう。旧作のクライマックスがいわば拡大され、しかもそこにどんでん返しを用意しているが、旧作を離れて純粋にこの映画だけ見たとき、それってそんなに衝撃的だろうか。先般記事を書いたやはりホラーの「ヘレディタリー / 継承」と近い構成と見てもよいと思うが、この「サスペリア」の方が、凄惨な儀式を描いているにもかかわらず、沸き起こる恐怖心は小さい。それから、大変頻繁に出て来る過去のイメージショットが、ちょっとうるさい。2時間半もある大作で、これだけ頻繁に断片的なイメージを見せられると、正直うんざりするように思うのである。きっと作り手は、冷戦下のベルリンにおける分断が人々の心理に与えた影響や、当時ウーマンリブなどと言われた女性の地位向上運動への皮肉などを込めているのかと想像はするのだが、でもなぜ今、1977年のベルリンと我々が対峙する必要があるのか分からず、それならもっと根源的な恐怖を淡々と描いた方が効果的だったのではないかなぁ・・・と思う。それからもうひとつ気になったのはセリフ。たまたま前回の記事で採り上げた「ナチス第三の男」でも言語問題に触れたが、この映画では英語が主でありながら、ドイツ語、そして時にフランス語も出て来る。作り手の側にはそこに何かの意図があるのだろうから、字幕でも多少はそれが分かるような配慮が欲しかったところである。

そのようなちょっと風変わりな映画であるのだが、世の中で期待されているのは、この監督が日本でも昨年公開された「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノであることによるのかもしれない。この映画は私はパスしたが、見てみれば多分問題作なのであろう。1971年生まれのイタリア人。確かにこだわりの映像を作る (例えば、主要な舞台になるバレエ・カンパニーの建物の外では、ほとんどずっと雨が降っている) 人ではあると思う。
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実はこの映画には「共犯者」がいて、それは英国人女優のティルダ・スウィントン。このブログでは何本か彼女の出演作を紹介して来ているが、私にとってはあのデレク・ジャーマンの忘れ難きミューズであり、その神秘的な存在感は、本作における魔女の親玉 (じゃないのかな?) にぴったりだ。なんでも彼女は 1999年に "The Protagonists" というルカ・グァダニーノの処女作に出演して以来、20年近くに亘ってこの「サスペリア」の再構築を監督と語り合ってきたという。
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それから、クレンペラー博士の亡き (?) 妻を演じるこのお婆さんは誰だ。
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面影があると思うが、この人こそ、旧作「サスペリア」で主役スージーを演じた、ジェシカ・ハーパーである。最近あまり女優活動はしていないようだが、2002年にスピルバーグの「マイノリティ・レポート」をニューヨークの映画館で見たときに、もしやと思ってエンドタイトルで目を凝らし、彼女の名を確認したことがある。って、もう 17年も前のことか (笑)。実は未だ 69歳と、それほどの老齢でもないのだが・・・。これが旧作における彼女。
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そういえば、タイトルについて思い違いがあった。「サスペリア」とは、きっと「サスペンス」から派生した言葉だろうと、中学時代からずっと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。そもそも綴りをよく見ると、"Suspiria" であり、これはどう読んでも「サスピリア」であろう。でも語感としては確かに「サスペリア」の方がよいので、これは邦題としてはなかなか工夫したと評価できるのではないだろうか。そしてこの Suspiria、ラテン語の "suspiro" (ため息) に由来するらしい。劇中でその存在が明らかとなる三人の魔女のひとりが、この Suspiria (ため息の母) なのだそうだ。実はダリオ・アルジェントは、この「サスペリア」を第 1作とする「魔女三部作」を撮っていて、ほかの 2人、つまり、「暗黒の母」と「涙の母」も扱っているようだ。

さて最後にもうひとつ。この映画の日本限定ポスターというものがあって、描いたのは絵本作家のヒグチユウコ。こんな感じで結構おどろおどろしいが、表記に日本語がないのが面白い。ルカ・グァダニーノ監督も絶賛して持って帰ったそうである。このヒグチユウコの大回顧展が、現在世田谷文学館で開催中。私も未だ見ていないが、3月31日の会期中に行くことができるかどうか。
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by yokohama7474 | 2019-02-13 00:32 | 映画 | Comments(0)