今回のヤルヴィと N 響の演奏は、期待通り、非常に見通しのよい充実した演奏であったと思う。この曲には晦渋な要素がついて回り、第 1楽章では威圧的な雰囲気もある一方で、音楽は持続的な盛り上がりを見せることがない。第 2楽章で歌われるのは、歌劇「戦争と平和」の「ナターシャとアンドレイの愛の主題」に類似するテーマであるそうだが、例えば 5番の緩徐楽章のような緊張感に満ちた美しさはない。そして、スケルツォを欠いているこの交響曲、終楽章のはしゃぎぶりにスケルツォ的な要素を兼ねているのかもしれないが、ここでも音響の統一感はあまり感じられない。このような曲でありながら、しかしヤルヴィと N 響は、まるで手慣れた曲であるかのように楽々と先へと進んで行くのである。いつものことながら、ヤルヴィの指揮の美点は、楽員たちの力をうまく束ねて解き放つ点にある。およそ不得意というレパートリーのない彼のことだから、この曲でも大変に力感に満ちた指揮ぶりで、実に安心感を持って聴いていることができた。上質な音楽体験である。