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THE GUILTY ギルティ (グスタフ・モーラー監督 / 原題 : The Guilty)

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この映画のポスターは、上記の通り、一見して目につくものだ。上の方には、観客の満足度 100%だの、あちこちで賞を受けているだのとあって、若干賑やかすぎる感じだが、ポスター本体は白を基調とした極めてシンプルなもの。そこに写っているのは、渋い男性がイヤホンを装着している写真である。コピー曰く、「犯人は、音の中に、潜んでいる」。ということはつまり、ここでイヤホンを耳にしている男性が、音の情報だけを頼りに、犯罪に立ち向かうといった内容であると推測される。これは面白そうではないか。ということで、珍しく封切数日後に劇場に見に行ったのである。一体どんな映画であったのか。

これはどこの国の映画かというと、デンマーク。このブログでは過去にも北欧のユニークな映画や、あるいは北欧出身の監督によるハリウッド映画などを幾つかご紹介してきているが、この映画という分野において、なかなかに多彩な才能を輩出してきている土地であると思う。そして今回のような、明らかな低予算映画でありながら、アイデアで真っ向勝負する作風に、改めて感嘆するのだが、監督は実はこれが長編デビュー作。1988年生まれのスウェーデン人、グスタフ・モーラー (と日本語表記にはあるが、苗字の「モー」の部分は M に、O のウムラウトであるので、もしかすると「メー」という発音が近いのでは? もっとも、そうなると、「グスタフ・メーラー」となって、かの作曲家のパロディのような名前になってしまって、あまり響きがよくないか。笑)。これは明らかに、本作の撮影セットでのポートレート。
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この映画の極めてユニークな点は、物語はデンマークの中の幾つかの場所が舞台となっているにも関わらず、すべてのシーンがこの、警察の緊急通報センターの中で展開するところ。と書いてもどういうことか分からないであろうが、つまりは、外の場所にいる人物は皆、電話を通してこの場所の人物と会話をする。つまり、全編 88分の間、観客が目にし続けるのはほとんど、主役のアスガー・ホルムを演じる俳優、ヤコブ・セーダーグレンの姿のみであるのだ。
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これは極めて特殊な映画であることが、お分かりになるであろう。ストーリーも非常に簡単で、この緊急対応を電話で行っている警察官アスガーが、緊急対応を要しないどうでもよい電話に何本か対応した後、これも一見番号違いかと思われる、何やら子供をあやす女性の電話を受ける。だが、この正義感に満ちた経験ある警察官であるアスガーは、その電話の裏にある事情を見抜き、いや、聞き抜き、どうやら誘拐被害に遭っているらしいこの女性から、関連情報をなんとか入手しようと試みる。このコールセンターからは、ほかの地区にある警察にも連絡を取ることができるし、各種情報 (特定のナンバーの車の所有者とか、携帯電話番号から判明する契約者の名前とか) を入手できるので、アスガーは、ありとあらゆる手を使って、自分が目にした、いや、耳にした、現在進行中の犯罪を停めるべく奔走する。いやもちろん、物理的にではなく、すべて電話を通してである。この映画の最大の見どころは、この息詰まる展開にある。見ている誰もが、被害者や幼児に対する感情移入に囚われ、行動力と直観力に満ちたアスガーが鋭く目星をつける犯人に対する憎しみを募らせることだろう。移り変わる場面の現地シーンを一切見せずに、電話の向こうから聞こえてくる音声だけでこのサスペンスを展開する監督の手腕には、実に驚嘆するばかりである。頑張れ、考えろ、次の電話をかけろ、アスガー!!
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監督のインタビューによるとこの映画は、3台のカメラを使って順番に撮影されていったらしい。なるほどそのような一貫した流れを、映像から想像することができる。撮影に当たっては、全体を 8つのパートに分けて行い、それぞれのパートは 5分から 35分であった由。35分の長丁場ともなると役者は大変な緊張感であったと思うが、そのような緊張感が、画面のそこここから感じられる点が素晴らしい。そしてなんとこの映画、13日間で撮影は終了したとのこと。もちろん、大変に密度の高い 13日ではあろうとも、映画の撮影日数としては異例の短さであろう。まさに創意工夫に満ちた映画作りである。因みにこの映画、早速ハリウッドがリメイクを発表したらしく、主演はジェイク・グレンホールだというから、きっといい映画になるだろうが、二番煎じと言われない内容にするのは、なかなか困難ではないだろうか。

さて、ではこの映画の結末についてはどうか。一言で言うなら、やはり面白いと、私も思う。だが、犯罪の真相は、見て行くうちに段々想像できる選択肢の範囲内ではないだろうか。少なくとも私の場合は、その真相に驚愕することはなかった。だがその一方で、改めて題名を考えてみると興味深い。邦題はなぜか、英語表記とそのカタカナを続けているが、原題は "The Guilty"。高校の英語で習うように、the の後に形容詞をつけることで、集合名詞となる。例えば The Rich なら「富裕な人々」。The Dead なら「死者たち」。なのでこの作品の題名は、「罪ある人々」であるわけだ。この意味は、見た人でなければ分からないだろう。人間は弱い存在であり、また罪深い存在なのである。それゆえにこそ、ともに生きている家族の絆が大事なのである。それこそがこの映画が、さりげなく発しているメッセージであろうと思う (従い、ラストシーンでアスガーがかける電話の相手は、自明であろう)。
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ところで、この映画はデンマーク映画であると冒頭の方で述べた。この映画を見てそのことを実感される方は、美術好きであろう。例えば上のカットなど、その色調をどこかで見たことはないだろうか。そう、デンマークの画家、ヴィルヘルム・ハンマースホイ (1864 - 1916。苗字表記はハマスホイとも) である。2008年の国立西洋美術館での日本初の個展に続き、ちょっと先の話だが、来年には東京都美術館で、彼を含むデンマークの画家たちの展覧会を開催予定である。この映画の映像を頭の中に置いて見に行くと、なかなかに興味深いと思うのである。
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by yokohama7474 | 2019-03-12 20:05 | 映画