うーん、これをどのように評したらよいだろう。フランス音楽と、フランスにまつわる音楽? 上岡は長くドイツで活躍している人だけに、新日本フィルとのプログラムも、ドイツ物の比重がかなり多くなっているが、その彼が採り上げるフランス音楽となると、それだけでも興味深いのだが、いやいや、ことはそれほど単純ではない。そもそもメインのマニャールについて語ることができる音楽ファンが、日本に一体どれだけいるというのか。実は私がこのコンサートをどうしても聴きたいと思ったのは、このマニャールゆえであった。以前の記事にも書いたが、上岡は今シーズンの主たる内容の紹介の中でこのマニャールに言及し、「ドビュッシーやラヴェルと同時代に、全く違った音楽を書いた人がいたことを知って欲しい」と語っていた。そう、このマニャールについては、私は随分以前に、「フランスにもマーラー風のシンフォニーを書いた人がいた」という紹介のされ方がされているのを見て、ずっと興味を持ってきた。彼のシンフォニーは、手元に CD はあるものの、実演で聴く機会はそうそうあるものではない。それがこのコンサートを選んだ理由である。この上岡という指揮者の熱意と冒険心には、強い感銘を受ける。
さて、アルベリク・マニャール (1865 - 1914) である。上で書いた通り、私が彼の名を知ったのは、「フランスにもマーラー風のシンフォニーを書いた人がいた」という表現をどこかで見たからである。その後、ステレオ初期に数々のフランス音楽 (とロシア音楽) を録音して一世を風靡したエルネスト・アンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団が、このマニャールの 3番のシンフォニーを録音していることを知った。そして、私の敬愛するミシェル・プラッソンとトゥールーズ・キャピトル管弦楽団による 37枚組の CD において、マニャールの 4曲のシンフォニーがすべて含まれていることを知って、喜んだ。だが、それらの CD を聴き込んでマニャールについて何か語れるほどの知識・経験が私にあるかというと、残念ながらそういうわけではない。ただ、ひとつ言えることは、ドビュッシーとラヴェルに代表される近代フランス音楽においては、弦の合奏よりも管の漂うような感じが重要であったり、ソナタならソナタという既成の形式から自由である点に比較すると、このマニャールの曲は、それらとは全く異なり、ドイツの後期ロマン派に近い音がする。だからこのマニャールのシンフォニーは、上記のモーツァルトの場合と逆で、ドイツの影響を受けたフランスの音楽というわけだ。ただ、「マーラー風」と言っても、そのシンフォニーは 1時間半を要するわけではなく、声楽を導入しているわけでもなく、オーソドックスなものである。生年を見てみると、マニャールはドビュッシーよりも 3つ下、ラヴェルよりも 10歳上。ドイツ系の作曲家と比べると、マーラーより 5歳下、シュトラウスの 1歳下である。経歴を見ると、ヴァンサン・ダンディの弟子である。ダンディは言うまでもなくセザール・フランクの弟子であるから、ここにひとつのユニークな系譜があるとも言えるだろう。これが 35歳の頃のマニャール。
実はこの作曲家、悲劇的な最期を遂げている。没年が 1914年とあるのを見て、はっはぁもしかして、第一次大戦で戦死したのかと思いきや、実はもっと悲惨で、自宅のあったバロンという小村に侵入して来たドイツ軍兵士と銃撃戦になり、そこで殺されてしまったのである。それだけではなく、自宅には火をかけられ、焼け跡から黒焦げの死体として発見されたという。戦争に関連した作曲家の死というと、我々はすぐにアントン・ウェーベルンを思い出すわけだが、そちらの方は戦後すぐの緊張状態の中での不幸な事故のようなものであり、このマニャールのように、勇敢に戦って死んで行った作曲家は、ほかにはいないのではないだろうか。実は私の手元には、この作曲家の室内楽全集という CD もあるのだが、このジャケットは何だろうと思ったら、自宅を防衛するマニャールの姿を描いたものであった。尚、この CD の解説書に、焼け落ちたマニャール邸の古い写真も載っているので、ここに掲げておこう。
NHK ホールのロビーでは、10分間に亘るウィリアムズとドゥダメルの対談の映像が流れていて、これが大変面白かった。まず曲目については、オリンピック・ファンファーレで始めるのは、来年の東京オリンピックに対するエールであるとのこと。映画音楽については、まず「スター・ウォーズ」は作曲家と指揮者で意見が一致し、ついで、「E.T.」、「ジュラシック・パーク」、そして「ハリー・ポッター」というあたりが日本でも人気があるだろうということで、決まったとのこと。ドゥダメルは、この選曲による流れは素晴らしく、まるで大交響曲のようだと絶賛。ウィリアムズは、日本で演奏するのだから、日本料理のようにヴァラエティあるコースとして、甘いものも歯ごたえのあるものも含めるのがよいと思ったと発言。そのような会話に先だって、もともとジャズ・ピアノを弾いていたウィリアムズがいかにして映画音楽を手掛けるようになったかや、ロス・フィルとの過去の長い関係などにも言及されていた。